2005年7月6日、社会福祉法人幸会 エンゼル保育園さん主催で、地域子育て支援センターに登録している、0歳、1歳、
2歳のお子さんの育児をしているお母さん方を対象にお話させていただきました。
お話の内容は以下の通りです。
皮膚のバリア機能について
- 皮膚は外界からの異物侵入に対するバリアであるとも言える。その機能を果たす表皮の状態を健やかに保つ事は非常に大切である。
- 環境要因によりそのバリア機能が落ちると外部からの異物の侵入が容易になり、皮膚炎の原因となる。
その原因を除去しない限り治療は出来ない。
例えば髪の毛が原因の場合には床屋さんが治療するケースもありうる。 - 異物が侵入すると、免疫機能が(人体を国に例えるとちょうど軍隊のように)働き、炎症反応を起こして異物を破壊する。その機序を考えると薬剤で免疫反応の一部分を抑える事よりも、皮膚のバリアを強めてそもそも免疫反応が起こらないよう、異物の侵入を抑える事、つまり皮膚を健やかに保つ事が大切。
(野口の勧める体の洗い方は乾燥性湿疹のページをご覧ください)
「アトピーとステロイド」について
- アトピーとういう言葉が安易に使われ過ぎている。
またアトピー性皮膚炎と言われて来院した患者さんの中には単に石鹸の使いすぎで皮膚のバリアが壊れているだけの人も多い。
そんな人の場合には体の洗い方を指導するだけで良くなる場合がほとんどである。
本来は理由がわからないものをアトピーと呼ぶのであり、その意味からも簡単に使うことは不適切である。 - またどうしてもアトピー性皮膚炎という診断名をつけなくてはならない場合もある。
そのような場合、強い炎症はきちんと抑え、治まったら維持し、その子の皮膚が加齢とともに厚くなり、症状が自然に治まるまで待つ事が一番の治療となる。 - 以前TVで久米さんがステロイドに対して誤解を招くような発言をしたが、その言葉に踊らされ、ステロイドを使うか使わないかでその医師を評価する事は無意味である。
皮膚科専門医はきちんと診断して症状・部位・面積・経過などを考えて使い分ける。
それができるのも大学病院等で長期大量投与による皮膚の萎縮などを覚悟の上でステロイドを使用せざるを得ない症例を経験して、「どんな部位に、どのくらいの強さの薬を、どれくらいの期間塗ったら皮膚がおかしくなるのか」を理解しているからである。 - そのような医師が使えばステロイドは決して恐ろしい薬ではない。
状態によっては強力な薬を短期間使用して一気に通常に近い状態に持っていく場合もある。
しかし使い慣れていない、つまりステロイドによる皮膚の萎縮などを経験していない医師が弱いステロイドを長期間に渡り使用したりしたほうが全身・皮膚への影響が大きい。 - またアトピー性皮膚炎の患児からしてみれば、毎晩毎晩痒さで目覚めてしまう苦痛、
またそれを連日訴えることを家族へ遠慮してみたり、睡眠不足を抱える事となり、また夜の暗闇の中で悶々と痒さと戦う事で考え方がネガティブになることもある。
さらにそのストレスから症状を悪化させてしまう事もあるようだ。
よってステロイドを使うべきときに使わないと患児の精神的な問題にまで発展してしまう可能性があると言える。 - アトピーに対していろいろな営利目的の業者が「アトピービジネス」といわれるような詐欺まがいの行為を行っている。「この・・・を3年間飲んでアトピーが治った!!」等のチラシを目にすることがあるが、医学的に考えると3年で皮膚が厚くなり、症状が出なくなったと考えるほうが自然なことがほとんどのようだ。
民間療法を完全に否定するわけではないが、語弊を恐れずに極論すると、皮膚が厚くなるまでの期間に毎日コーラを飲んでいても症状は消えていったとも考えられる。
(アトピーに関してはアトピー性皮膚炎のページをご参考にしてください)
皮膚に現れる感染症について
- 以前野口が行った調査によると、とびひの菌と鼻くその菌はおよそ8割の症例で一致した。
その調査の中ではMRSAが1割程度も検出されたため、全身に薬剤が行き渡り常在菌を殺してしまう経口抗生物質よりも、
病巣に直接塗ることができるイソジンを塗り、患部を覆うことが基本。 - ヘルペスウイルス感染症(水痘など)、風疹と麻疹、またリンゴ病について、特徴と簡単な見分け方を説明。
特に風疹・リンゴ病(伝染性紅斑)については妊婦さんに感染してしまうと胎児に取り返しのつかない悪影響を与える事が多いため、注意が必要。気になる場合には血液検査で抗体価を調べ、場合によっては予防接種も有用。 - 水いぼを取るべきか否か、学会の流れや歴史的経緯、免疫学的根拠とともに説明。取る必要性はないと結論。
上記の内容でお話しさせていただきました。